Vol. 6『世の中で一番さびしい事は、する仕事のない事です。』
【福沢諭吉/福沢心訓七則より】
先月後半は猛暑が続く毎日でしたがようやく少しずつ暑さも和らいでまいりました。
こうした季節の変わり目は体調を崩しやすく、特にコロナの勢いが、まだ全く予断を許さない状況ですので皆さまも健康管理、「マスク・手洗い・うがい」の感染予防対策が必須となります。
名言には心に響くこと、学ぶべきことが多くあります。 「世の中で一番さびしい事は、する仕事のない事です。」は、 有名な、福沢諭吉の七か条からなる教訓「福澤心訓」のひとつにある言葉です。
尤もこの「福澤心訓」は、世間的には福澤諭吉が著したものとして広まっていますが、実際には作者不明の偽作(偽書)であり、福澤諭吉が創立した慶應義塾大学では 「(福澤)心訓は福澤(諭吉)先生の言葉ではない」と明確に否定しております。
ただし、私はこの福澤心訓は福沢諭吉の数多くの著作、思想、および蘭学塾での教えの本意をよく表している名訓だと思います。
一、世の中で一番楽しく立派な事は、一生涯を貫く仕事を持つという事です。
一、世の中で一番みじめな事は、人間として教養のない事です。
一、世の中で一番さびしい事は、する仕事のない事です。
一、世の中で一番みにくい事は、他人の生活をうらやむ事です。
一、世の中で一番尊い事は、人の為に奉仕して決して恩にきせない事です。
一、世の中で一番美しい事は、全ての物に愛情を持つ事です。
一、世の中で一番悲しい事は、うそをつく事です。
なぜ今回、この福澤心訓を取り上げたかと申しますと、近年、コンピューター開発者、物理学者、社会学者、心理学者等の間で重要な関心事になっているシンギュラリティ(技術的特異点)のお話がしたかったからです。
今やコンピューター技術は加速的に進歩をしております。AI(人工知能)の分野では、 2012年開発プログラム「ディープラーニング」の加速的な進歩もありオセロ、囲碁の世界では、ともに世界チャンピオンを破り、ついには、将棋の王位保持者の名人も破る場面も出てまいりました。
またコンピューターの計算速度も加速的に向上しており以前、世界一の能力を誇った日本のスーパーコンピューター「京」そして、再び世界一に返り咲いたスーパーコンピューター「富岳」は、「京」の400倍の計算速度を誇ります。 「京」開発から「富岳」に至るまでものの10年です。
このままコンピューターやAI(人工知能)の能力が向上すれば、やがて人間の思考能力を超えるのではないかという可能性が出てきました。 そして、それはおそらく2045年頃になるのではといわれています。
その分岐点がシンギュラリティ(技術的特異点)と呼ばれています。
では、立ち返って人間の「能力」とは何でしょうか?
「優しさや思いやり」「目的をもって人生を有意義に送る」等々、そういった様々な面を思い浮かべる方も多いでしょう。
しかし、科学者の見解では、こうした人間ならではの「感情」もディープラーニング(インプットされた情報を自ら思考を繰り返し、無限に近い思考・思慮を重ねるプログラム)をもってしてやがては「感情」すら獲得するのでは、といわれております。
それでは、本物の「感情」とは何でしょうか?
コンピューターがたとえ「感情」を持ち得たとしてもそれは、大量の情報を人の思考アルゴリズムを模してあくまで「計算」した結果にすぎません。
そして、一番の人間とコンピューターの違いは「コンピューターは『生きる(存在する)目的』を持っていません」
人は誰しも「生きる目的(意味)」を持っています。 例え人生の大きな壁にぶつかり「絶望」に直面しても、それでもなんとか「生きよう」とします。
時には「生きる目的」を見失ってしまう事もあるかもしれませんが、それでも人は「生きる目的(意味)」を渇望します。
その人間本来の「生きる目的(意味)」が「福澤心訓」にはよく表れています。
精力的に仕事に誇りをもって取り組み知識・教養を得ることに対して旺盛な心を持ち常に奢らず、謙虚に「人のために奉仕」してそして全ての人に愛情をもって生きる。
それはプログラム計算で出た結果を行うものではなく「人が根源的に自らそれを『生きる目的』として全うする」生き物だから成しうる事なのです。
家庭でも、職場でも、社会でも、皆がそうして手を取り合い愛情をもって、支え合っていく。 それがコンピューターには獲得する事の出来ない「生きるという意味」です。
皆さまも日々、ぜひ意識して下さい。「自分はどうして生きているのか?」 きっと、あなたを必要とする人たちはたくさんいます。